「じゅんこ〜、じゅんこ〜」
女子の声で何度もその名前が呼ばれる。
生物委員会名物、脱走毒虫大捜索だ。
ただし、生物委員会に女子はいない。
ではなぜ女子が探しているのか。
俺が頼んだからだ。
もちろん、捜索なんて口実。は俺が頼めば嫌なんて言わないから、こうやって必ず、隣を歩ける。
少し熱くなって、涼しげな木陰に目をやる。
しかしその木陰も途中で途切れている。日の当る場所に目をやってしまい、思わず顔をしかめた。
それがちょっとした発見だった。
あの大捜索から数日たって、俺は食堂帰りのを待ち伏せた。
ちょうど良いことに、はひとりだ。
「よ、」
「八左ヱ門、何?」
手を挙げてあいさつすると、は眉を寄せて首をかしげた。
「なあ、月見しないか?」
特に理由なんてない。ただの隣に座りたいから。
俺が誘えばお前は嫌なんて言わないだろ?
「いいけど」
そんな返事がお前らしい。
「ほら、座れよ。ここ穴場なんだ」
「寒いよ」
建物の影になっているから夜はよく冷える場所だ。だからこそ人気は少ない。
「委員会の時にさ、見つけたんだ。月が綺麗だろ」
何も邪魔するものがなく、月の光が直接ここまですべて届く。
隣にいるの顔がよく見える。
「兎は餅ついてるかな」
「ついてるならぜひともお裾分けに与りたいね」
「食い意地張ってんな」
からかうように頬を軽くつつけば、は嫌がるように手を払う。
月が明るいから、仄かに赤くなっているのはばればれなのに、それを隠すお前が愛らしい。
「食いたいならさ、が作ったら?俺も食いたいし」
「は?何で私が」
きっとこれを言ったらはすぐに団子を作りたくなるんだろうな。
「料理上手な女っていいよな」
団子に料理上手も何もないと思うが、はすぐに立ち上がった。
「どうした?」
「・・・」
何も言わずに行こうとするの手を掴む。
「なあ、どこ行くんだ?」
「・・・団子、食べたいんでしょ」
の拗ねたような返事につい笑ってしまう。
手を離せばは早歩きで行ってしまう。
料理上手なお前じゃない。
俺に好かれたいために現金になるお前が好きだ。
俺がのことしか考えてないなんて知ったらお前はなんて思うかな。