なあ、知らないだろう。いつだって私の目がお前を追っていることを。
いつも何も考えてなさそうに歩く彼女。そのまま行くとどっかの木にでもぶつかりそうな雰囲気だ。
そんなんだから、私は放っておけなくて、一緒にいた雷蔵たちに別れを告げて彼女を追いかけた。
彼女の細い肩を掴む。
「」
名前を呼ぶと、彼女は眠そうな目で私を見上げる。
いつもやる気のなさそうな。
「三郎かぁ、何?」
「な、何って」
特に用事があったわけではない。ただ単にいたから、危なっかしそうだったから。
「そうだ、お前ちゃんと前見て歩け」
「・・・見てるけど」
「いや、お前は見てなさそう。ふらふらしてる」
「それは平衡感覚がないからで」
「普通に歩いてるだけで!?」
「三郎、声がおっきい」
「お前のせいだよ」
「責任転嫁だよぉ」
やる気のない声に気が抜ける。肩から手を離した。
「とにかく、気を付けろ。なんか危なっかしいんだよ、お前は」
「大丈夫だよ、三郎の勘違いだから」
あはは、とわざとらしい笑い声を上げるだが、顔が笑っていない。は感情表現に欠ける。
心配してんだから、うん、って言えよ。
腹が立ったのか、悔しかったのか、悲しかったのか。良く分からないが、の額を小突いた。頭が後ろに振れる。
「あんま危ないことすんなよ」
「はいはい」
ちゃんと口に出したのに、彼女はきっと守らない。
委員会の仕事が終わり、部屋への帰り道。私は目ざとく、を見つける。
屋根の上に、うつ伏せになって建物の向こうを見ているらしい。
危ないことするなって言ってるのに、屋根の上になんかに上るなよ。
注意するためか、それとも会いたいだけか、とにかく私も屋根に上った。
「おい、」
「三郎、静かに」
名前を呼ぶと、はすぐに反応した。静かにって、動物でもいるのか。
「青春だねぇ」
の小声が聞こえてきた。
私は彼女がいる所よりまだ低い場所にいるが、彼女の言っているものは見えた。
いわゆる告白現場。
「悪趣味だな」
「私が先にいたのよ?」
私を見ないまますんなりと言葉が返ってきた。
私は振り向かない背中を見つめる。
「あれってどう思う?」
私なりにそれとなく彼女について一番気になることを尋ねた。
「あれって、どれ?」
「お前が今見てるやつだよ」
伝わらなかった。
一拍置くと、彼女が答える。
「青春だなぁって」
どこのばあさんだ、お前は。まだ10代だろうが。
「じゃあ、告白するとかされるとかは?」
「いや、だから青春だなぁって」
こいつ、まともに答える気があるのか。焦れる。一歩だけ、彼女に近づいた。
「お前は青春、しないのか」
「本気で想える奴ができたらする」
彼女は身じろぎもせず、答えた。
彼女の言葉全てが本心なのだと気付いた。
「三郎はしないの?」
「何を?」
すんなり答えるのは癪だから仕返しにわざと気づかないふりを。
がやっと振り向いた。
「青春」
無感情の瞳とツンとした声にゾクリとした。
そして私の心臓は一気に血を送り始める。
「本気で想える奴ができたらな」
彼女はまた目を他へ向けた。
「お互いまだ青春は先だね」
私は青春の真っただ中だよ。
私はため息を吐いて、の隣に座った。
の肩を叩けばいい、声をかければいい、隣に座ればいい。
いつか、私の目に映っている物に彼女が気付くと良い。
きっとその時、彼女は私を見ているだろう。