ドリーム小説




太陽がこの上ないというほど、地面を照りつけている。
いったい何が気に食わないのだか。少し私への優しさで熱を弱めてくれないだろうか。


「暑いねぇ」


私の隣ですでに上半身は下着のタカ丸さん。

すごく羨ましい。私もできるならそれがしたい。


私とタカ丸さんは一応付き合っている。学年は違うけれど。
私は五年、タカ丸さんは四年。でもタカ丸さんの方が年上。ちょっと不思議。



今、何もすることがないので、タカ丸さんの部屋の前の廊下でだらけている。
陰があるだけましだ。



ちゃん、髪の毛上げたら?暑いでしょ」

タカ丸さんが笑顔で聞いてきた。それに私は頷く。
髪の毛どころか、体全体が汗ばんで気持ち悪い。できることなら水風呂にでもつかりたい。

「そうですね。確かに汗でベトベトして気持ち悪いです」


しかし私は普段頭巾をはずし髪の毛を下ろしっぱなしなので、髪紐など持ち歩いていない。

仕方なく手で髪をひとつに握った。たぶんすぐに放してしまうと思うけど。




「あれ?もしかして僕が結ってもいいの?」


「あ、いえ。髪紐持ってきてないんです」



物凄くキラキラしながら言われた。そりゃあなたは髪結いさん、職人魂が疼くでしょう。



「じゃあ、僕のをあげる。で、僕が結う」
タカ丸さんはすばやく部屋に入り、道具箱から紐を出してきた。


「嫌ですよ、汗で髪の毛ベタベタしてるのに」

好きな人に汗をかいた髪の毛を触らせるなんて恥ずかしい。
手を伸ばすタカ丸さんからヒョイと逃げた。
そんな私の行動にタカ丸さんが不満そうな顔をする。




「え〜、いいじゃん。ちゃんならベタベタだろうがなんだろうが触りたい」



・・・今、この人恥ずかしいセリフ言ったこと気づいているのだろうか。

そりゃ彼女としてすごく嬉しいんだけど、でもやっぱり恥ずかしい。




「ね?いいでしょ?」


「・・・嫌いにならないで下さいよ」


「なるわけないでしょ」

せがんでくるタカ丸さんに私が拒否できるわけもなく、折れてしまった。



渋々した返事にタカ丸さんはやけに嬉しそうだ。

タカ丸さんが私の後ろにまわる。私の髪の毛を掴んで持ち上げる。風が吹いてひんやりした。






ちゃん、項に赤い跡があるんだけど・・・」


「え、項?ああ、蚊ですね。どおりでさっきから痒いわけだ」


項に手を伸ばして軽く掻いた。指が軽く濡れる。その部分は小さく腫れている。



「本当に蚊!?蚊なの!?」




「いや、見ればわかりますよね」




ほかに何があるというのか。




「他の男じゃないよね」



その言葉にキュッと胸が苦しくなる。
私はタカ丸さんと付き合っているのに、信じてもらえてないのだろうか。


「違います。蚊です」

疑われるのが嫌で、きっぱりと言い放った。



ギュッと後ろから抱きしめられる。薄い布越しだから熱いタカ丸さんの体温が伝わってくる。


「嫌だよ、他の男なんて近づけちゃ。嫌だよ」


すごく頼りない声で呟かれる。いつもの彼とは正反対の声。



「私にはタカ丸さんだけです。タカ丸さん以外嫌です」


彼を安心させるように、強い口調で答える。

腕の力がさらに強くなった。




暑いけれど、二人でくっついた熱さは愛おしくて忘れたくない。心地いいとは言えないけれど、安心できる熱。






タカ丸さんが離れた。涼しさが二人の間を抜ける。

また髪の毛があげられる。今度こそ結ってもらえると思ったら、しばらくしてもタカ丸さんは動かない。


「どうしたんです?」

振りむけないから、そのまま尋ねてみた。


「いや〜、蚊が憎いなぁって」

「は?」

その明るい声で『憎いなぁ』って私の聞き間違いですか?

「だってちゃんは僕のものなのに。勝手に跡付けていくなんて、悔しいなぁ」

タカ丸さんの指が私の項を撫でた。いや、蚊が刺したところを弄っているだけだ。

「タカ丸さん、こそばゆい」

「うん」


手が離れた。今度こそ再開だろう、と思ったら項に柔らかな感触がした。生暖かい。濡れる感触がする。

「ちょっ!何してんですか!!」

「ん〜、もちょっと待ってね」

首に生暖かい息がかかる。そしてまた何かが首を這った。

おそらく、タカ丸さんの舌。何度か蚊の跡を舐めると、強く吸われた。同時に痛みが走る。


「ひっ!」

「うん、こんなものかな」

やけに満足そうな声が聞こえた。私は体に鳥肌が立っている。ついでに言うなら顔は赤いはずだ。



「何してんですか!!!」



髪の毛のことなんて忘れて、私は勢いよく振りむいた。髪は軽く掴まれていたようでするりとタカ丸さんの手を抜け出た。

「だってずっと蚊のキスマークがついてるって嫌だから、俺の跡に付け替えてみた」

「そんな、たかが蚊なのに」

「いや、男としては見逃せないな」



髪の毛で普段は見えないけど、お風呂入る時は髪の毛上げるのに。みんなに見られたらなんと言われるか。



「嫌いになった?」


タカ丸さんは覗き込むように私を見る。

ここでそれを聞くのはすごくズルイ。嫌いなんて答えられるはずがないじゃない。可愛い顔なんてしないでよ。



「ああ、もう。大好きですよ、タカ丸さん!」



そう言ったら彼がすごくうれしそうに笑った。それを見るのが恥ずかしくて、私は前を向いた。














「あの、タカ丸さん」

「何?」

髪の毛は無事結ってもらって、また二人でダラダラしている。


「蚊で血を吸うのは雌だけですよ」


私がそう言うとタカ丸さんは思い出したようにアッと言った。そしてまじめな顔になった。

「・・・それは、別の意味でもえるね」

「・・・別の意味って聞かなくてもいいですよね」











季節感総無視な内容・・・。

1年以上前に描いたものです・・・。