「なぁ、。お前は私が好きか?」
「は?」
唐突に聞かれたその言葉。ご飯を食べている私を机に肘を付いて見る彼。
いったい何を気にして聞いた言葉なのか、私にはまったく意図が掴めない。
普段、同級生である彼を好きかどうかなど気にして過ごしていないため返事に戸惑う。
と言ってもこう話していても嫌じゃないのだから嫌いではないはず。嫌いの反対は好きで間違いない、はず。ならここは肯定してもよいのだろう。
「・・・たぶん」
とりあえず、後々面倒が起らないように曖昧に答えてみた。
すると彼の顔がみるみるうちに不機嫌になる。失敗したか。
「その『たぶん』ってどのたぶん?たぶん好き?たぶん嫌い?」
こだわるなぁ。
「たぶん好き」
彼はフーンと言って席を立った。よほど彼にとってつまらない結果だったのだろう。
彼は私に背を向けてひとつため息をついた。そのまま彼は私の目の届かないところへ行ってしまった。
いつもイケドンで即決進行の彼には珍しい姿だ。
それだけにとても気になる。自分は余程彼を傷つけることを言ってしまったのではなかろうか。・・・たぶん好き・・・。
彼がこだわったのは「たぶん」?
やはりハッキリさせたい派の彼にはこの曖昧な返事が好ましくなかったのだろうか。
「ん〜、謝った方がいいかな」
とりあえず、次の授業に遅れないように教室に向かわなければならない。
授業は自習だった。なんでも急に職員会議が入ったらしい。学園長の思いつきの行事に関係なければ、ありがたいと思う。
みんな部屋に戻ってそれぞれ勉強するのか何なのか分からないけれど、私は座学よりも実技の方が苦手なので訓練場で練習することにした。
訓練場についてみれば、先に七松がいた。さっきの今で少しどうすればいいんだろうと思ったんだけど、まず謝らなければ。
彼の背中に声をかける。
「七松!」
彼の顔がこっちを向く。彼もさっきのことが少し気になるのか、困った顔をした。
「、も自習だよな」
「うん、あのね、さっきのことなんだけど」
途端彼の顔が赤くなった。
「あ、いや!あのな」
「ごめんなさい」
慌てる彼の声を遮って私は言葉を出した。すると彼の顔がとても悲しそうになった。どうして?また私間違えた?
「は、なんで謝るんだ?」
「だって、七松を傷つけたでしょ?」
そうだと私は解釈したから謝った。あなたに嫌な顔をさせたのがとても申し訳なかったの。
今もだよ。いつもならあなたは太陽のように笑うのに。
「私はに傷つけられたんじゃない。自業自得なんだ」
「でも、話す前は嫌な顔してなかったじゃない」
私と話したから、七松は不機嫌になったじゃない。だから私のせいなんじゃないの?
「全部、私の勝手なんだ。だからが気にすることなんて何もないんだ」
彼の顔に笑顔が浮かぶ。でもそれはいつものと比べられないほど脆く表層的なものだ。
「迷惑かけてごめんな」
その言葉に、何故だろう。プッツンと理性の糸と言いますか、忍びとして最悪ですが耐え忍ぶ心が千切れ落ちまして、私は目の前の彼を睨みつけました。
「じゃ何で自分のこと好きかとか聞くわけ!?勝手とか言うなら最初っから不服そうな顔するな!
ため息とかつくしさ!あんたいっつも物凄くそりゃもう夏の太陽みたいに笑ってんのに、
それが暗い顔に変わったら何かあったのかって気になるのは当たり前でしょ!!当然のことでしょ!
自分の勝手に巻き込んで迷惑かけたと思うなら、今日のこと徹頭徹事細かに説明しなさい!!あと笑え!!!」
息継ぎを挟まない言葉の羅列は、彼に衝撃を、私に体力の消耗を与えた。
結構文句も言ってしまったから、嫌われたかと思ったけど、彼は笑った。
いつもの笑顔はまだ遠いけど、春の太陽ぐらいには暖かくなった。
「あ〜、どうしよう。やっぱ駄目だな」
七松は笑ったまま頭をかいた。そして微笑んで私を見た。
「私が好きだ」
まっすぐに私を見る彼。ほほ笑んだまま直立不動。でも顔だけは赤く染まり始めた。
「その、好きは、その」
「もちろん、恋として」
さっきの勢いをできれば誰か私に返して、と心の中で思ってしまった。
正直こう言うことに慣れていない私はしどろもどろでも精一杯なのだ。
「あ、の。じゃなんでその、食堂で『好き?』って聞いたの?」
「私が弱いからだよ。私がに好きって言って期待通りの反応が返ってこなかったら怖いから。結局答えは期待と少し違った。でも、もういいんだ」
七松が私に近寄って来た。私はそのまま動けないまま。私と一歩の間隔を空けて彼は止まった。
「がどう思っていても私はが好きだ」
それはもう、いつもの笑顔とは比べ物にならないほど輝いて素敵な笑顔。
それで言葉と同時にその笑顔にクラリと私はしてしまった。
でも今日『たぶん』と返事をしたのに、すぐ肯定的な返事をするのはおかしくないだろうか。
もしかしたら自分は空気に流されているのだろうか。
こういうときはどうしたらいいのだろう
。一つだけ頭に引っ掛かる考え。でもこれは少し卑怯な気がする。
でもこれ以外に思いつかない。
「あの、さ。さっきも言ったけど、七松のこと好きだけど『たぶん』で、曖昧で。
すっごく申し訳ないんだけれど、『たぶん』がなくなるまで、待ってもらえないかな」
私、すごく嫌な女じゃない?こんなこと言ったら七松だって嫌になるよ。
「いいよ」
「へ?」
七松は顔を真っ赤にさせて頷いた。
「待つ!私待つ!」
「いいの?」
一歩の距離も詰められた。七松の手で両肩を掴まれる。
「だって、が私のこと好きになってくれるかもしれないんだろ!?なら、待つ!!」
その目がすごく真剣で、男の人みたいで、笑顔よりも魅力的だと思ったのは心の中にしまっておく。
「、好きだ!」
「あ、はい」
その日から七松は一日に一回私に好きだと言う活動を始めた。実習が入ると会えない分何度も言って行く。
それがすごく可愛くて好き。私はいつかちゃんと彼に「たぶん」を外した言葉を贈るだろう。
その時彼は、どんな顔を見せてくれるかな。