「三郎、ずっこい!」
「あ?」
三郎は口をモゴモゴと動かしながら返事をした。
目の前には憤慨した同級生くの一が。
「それ!」
くの一が指さしたのは三郎が抱えている皿に入っている物。
三郎はそれを一度みると、平然と答えた。
「しんべえに貰った」
「分かるよ!かすていらなんてしんべえ君くらいしかくれないよ!私がかすていら好きなの知ってるんだから分けてくれたって良いじゃない!」
三郎の反応に悔しさが増す。そして三郎はそれが分かっていてやっている。
皿に残った一片を少女に差し出す。
「いるか?」
「いいの!?」
飛びあがりそうな勢いで喜ぶ。急に瞳を輝かせるとは現金な。
「いいわけあるか」
三郎は最後の一片を掴むと口の中に放り込んだ。
「あ、ああ〜」
三郎の口に姿を消したかすていらの姿を追って手が伸びるが、途中で力尽きてぶらりと下がった。
「何も、そこまで」
飲み込んだ後に三郎が言った。
項垂れたまま顔を上げないくの一に三郎はため息を吐く。
「悪かったよ、。今度は取っといてやるから」
「ほんと?」
呆れたように言われた言葉に反応する。
「ああ」
「きゃ!三郎男前!」
飛び付いてきそうなほどの反応に、三郎はの頭を軽く叩いた。
「阿呆」
は眠気を感じ、自室でまどろむ。
天気は良いし、珍しく静かだし、もう寝るしかないでしょう、といった感じだ。
はすでに目を閉じていて、深みにはまる一歩手前である。
体はすでに重たくて動かせそうにない。
そんな彼女の顔に影が差した。
「おい、寝てんのか?」
一応の耳に入ったが、夢の中の出来事のようで何も考えられずその声はの中から出て言った。
「寝てんのかよ」
相手はあからさまなため息を吐く。
「せめてなんかかぶって寝ろよ。馬鹿は風邪ひかなくてもアホは風邪ひくんだからな」
シャッと襖の開く音がする。
それから柔らかい物がの胸より下にかかる。温かさを感じた。
「せっかくしんべえに貰ってきてやったのに」
が寝ていると思っているはずなのに、相手は一人ごとを続けた。
「あほ」
の額に感触がある。
はそれで眉間に皺を寄せた。
「んん」
声が漏れる。
しかしそれからは何の衝撃もなく、声も消え、は夢の中へ落ちていった。
夕方になり、目を覚ましたは自分にかかっている布団を目にして不思議に思った。
布団を自分で用意した記憶はない。
それから自分の頭があった位置より少し上にもないはずのものがあった。
皿に入ったかすていらが二切れ。
それを見ては微笑んだ。布団とかすていらを関連づけるのは容易だった。
「・・・しんべえ君かな」
自分が言ったことに自分で笑う。
「なんてね」
温かい布団を畳み、部屋の端に寄せる。
皿を引きよせ一口だけ食べた。贅沢な味がする。
「お返しはお団子で我慢してもらおう」
たぶんいらないって言われるだろう。
布団のことも、かすていらのことも知らない振りをするかもしれない。
まあ、それでも押し付ければ良いかもしれない。
分かりにくいけど分かりやすい優しさを持つ人に。