人間、外見的特徴が自分と異なる人を好きになるらしい。
それだけなら両想いが量産されるだろうが、精神的には自分と似た価値観の相手の方が好ましいと思うはずだから、外見の話だけより量は低減する。
更に一般的に整っている顔立ちがあり、それを持っている者は選択肢が多いが、結局選べるのは一人である。
何が言いたいかと言うと、とりあえず最初の話は納得ができるということだ。
確かに、私と彼と外見的特徴が大きく異なる。
「何だ?」
威厳のある物言いは私が彼を引きとめたからだ。
私は懐から紙を取り出す。
「先生から預かりものです」
ふん、と言って彼は私の手から紙を受け取る。
紙を広げ、切れ長の目でなぞるように見る。それが最後まで行きつくと、また元通り畳んだ。
「確かに。ご苦労だったな」
どこの殿様だ、と私は無表情の裏で思った。
用事は終わった。これ以上ここにいる必要はない。
彼に背を向ける。引き止められることなど当然ない。
いつも通り私は寝転がり、いつも通り同室の友人は変な姿勢の彼女曰く美容体操を行っている。
毎日毎日人の為に同じことを続けられる友人は私にとってとても近いのに少し遠い存在だ。
見ていたら「ん?」と首を傾けられた。
私はそれに「何でもない」と返す。それだけで友人は何事もないように同じことを繰り返し始めた。
この頑張りはいったいどこから来るのか。
「や〜ん、やっぱり素敵」
「本当に目の保養。もうずっと見てたい」
素敵の言葉につられてそちらを向くと、やはり例の彼だった。
少女たちの目で彼が女子にとって好ましい顔であると改めて認識した。
皆そうなんだ。だったらこれはそうたいした気持ちじゃないのかもしれない。
ギュッと胸より少し下の衣を握った。
鏡を見て、手を進める。薄く白粉を、眉を形よく、頬に少し朱が差す程度、唇に紅を。
授業の一環だ。自主的に化粧などしない。
慣れないからなのか、才能のせいか、いまいちうまくできない。
隣から「よし」という声が聞こえた。見てみるとなるほど、綺麗に仕上がっている。
友人が私を見るとギョッとした。
「鏡見てる?」
「一応」
そんなにひどいだろうか。
友人は苦笑して筆を取った。
「少し直すよ」
それからサッサッと塗っていく。
流石、毎日やっているだけのことはある。手慣れたものだ。
「他は勝てないけど、これだけは私の勝ちね」
悪戯っ子のように笑う友人に、私も笑った。
授業が終わり、化粧を落とそうと井戸に着くと彼がいた。
相手も私に気づく。すると私を覚えていたようで「ああ」と言った。
「今日は化粧をしているんだな」
「え、あ、授業で」
「そうか、上手いものだ」
優しく笑われた。戸惑う。一体何をどう返したらいいのか。
しかし返す前に彼が口を開く。
「そういえば名を聞いていなかった」
それもそうだ。学年の違う女子の名前などこの人が知るはずがない。
「私は―――」
私の答えを聞いた彼はほほ笑んだ。きゅっと胸が締まる。
「良い名だ」
頬が熱を持つ。
会話はそれだけで終わった。
分かった。皆、あれが欲しくて頑張るのだ。
あえて誰の名前も出しませんでした。
相手はお好きに解釈してください。
あれだけ恋愛に燃えているヒロインの友人なら、友人も恋をするんではないか?という妄想からできました。
ただ彼女はヒロインより消極的だと思います。
お読みいただきありがとうございました。
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