I'm looking for you








目の前の光景に、呆然とする。

青い空、輝く草、緑の木々。よくありそうで、街じゃそうない大自然。

何だこれ。当たり前のような疑問だけれど、誰も答えてくれそうにない。

そうだ、鏡。

入口があるんだから出ればいいじゃないか。

いい考えだと思ったのに、それは無情にもとても現代にいるとは思えない甲冑を来た男性たちに姿を変えていた。

その中にいた赤い甲冑の男と目が合う。

「な」

何なんですか。そう口にしようとしたと思う。

けれどその前にガシャガシャと走ってきた男に後ろから抑えつけられ、首に刃物を当てられた。

腕が痛い。少しだけ首に痛みがある。

ゆったりとした動きで誰かがが私の前に立った。

「若、お下がりください。危のうございます」

「女ではないか。何を恐れることがある」

老人と成人男性の声だ。土にめり込んで顎が痛い。

「侮るのはいけませんぞ。女子とて」

「うるさい。現に大丈夫ではないか」

金属の擦れる音がして、影が動く。

「おい、女。お前どこから出た」

先ほどの受け答えとは違う、容赦のない声。怖い。こんな風に呼びかけられたのは初めてだ。

「聞こえんのか」

「いえ、聞こえます」

「どこから出た」

来た、ではなく出た、と聞かれるのは、きっとあの鏡のせいで突然現れたように見えたのだろう。

答えようにも鏡は消えてしまっている。

「どこからって」

返答に詰まると、空気で相手が苛立つのが分かる。

「答えられんのか」

「いえ」

答えなければ、殺されるかもしれない。でも、どう言ったらいいのか適切な答えも見つからない。

「鏡を・・・」

「鏡?」

「鏡を通ってきたんです」

とても信じてもらえないだろう。私だったら信じない。信じられない。

でもほかに言うことが思い浮かばない。

「鏡など見当たらんが」

「消えました」

「信じられると思うか」

「・・・いえ」

グッと後ろから体に力をかけられる。息がし辛い。

「名前は」

、夏美」

「年は」

「十四」

「目的は」

「もく、てき?」

「何の用もなくこんな場所にいると思えんが」

確かにそうだ。こんな家もなさそうな所になぜいるのか。それはこの人たちにも言えることだけど。

「ありません。来たくて来たんじゃ、ない」

「嘘でも何か言えばいいものを」

馬鹿にされた気がする。声の感じがそうだった。

「恐れながら若」

「なんだ」

「もしやこの娘、天女ではありますまいか」

老人の声が、何やら耳慣れない単語を使った。天女って、私のことか。

影の動きで見下ろされるのがわかる。

「こんな下品な天女がいるものか」

下品。面と向かって言われたのは始めてだ。抑えつけている力が少し緩んだ。

「羽衣も持っておらんようだぞ」

「しかし身形が我々の知るものと大きくちがいます。なにより何もない場所から急に現れました。これはもう神に近い、いえ、人ならざるものだと」

「年寄りは信心深い。どちらかというと妖怪ではないか」

被さっていた影が大きくなる。

腕が伸びて、私のバッグを取り上げた。

皮が叩かれる音がする。

「何だこれは」

首の刃物はそのままに、腕が離され体を起こされる。

私の前には赤い甲冑の男が立っていた。奥には、先ほどの天女発言をしたと思われる老人が立っている。前に突き出されたのは取り上げられたスクールバッグ。

「バッグ、です」

「バッグ」

茶色いスクールバッグの側面を叩いている。

「バッグとはなんだ」

「え、えっと、袋?」

「これが?」

今度はさわさわと触ると小さなポッケに手を突っ込んだ。

「ここから入れるのか」

「いえ」

チャックには気づかないらしい。横に引っ張っている。

「難解な。後回しだ」

ガシャガシャと鈍い音が耳に響く。

「若!」

「何だ」



「恐れながら申し上げます、動きがありました」

「わかった」

抑えつけられていた腕を強引に引っ張られ、腕が軋む。上半身を起こされた状態で今度は肩を抑えられた。

「牢に放り込んでおけ。逃がすなよ」

「はっ」

赤い鎧の人は私に背を向けた。

途端、首が締まる。後ろから服をつかまれ、上に引っ張られたのだ。あまりに乱暴な扱いだ。

「痛い」

小さくそう呟いた。とっさに出たのだと思うけれど、もしかしたら精一杯の抗議のつもりだったのかもしれない。

「おい」

「・・・ああ」

前にいたおじさんが首を叩くジェスチャーをすると、首に何かを叩きつけられた。



しばらく、私の記憶は途切れる。





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