ドリーム小説







「あ〜、久々知君と不破君が数えてる」

甲高い誰かの声が、私の脳を刺激した。

久々知君くん不破君がいる=勘右衛門がいる!!


ここで行かねば私の名が廃るのよ!!!



私は即座に立ちあがった。隣にいた友達は呆れた顔をした。

ごめん、なんて言ってやらないわ。この間の恨み、忘れた訳じゃないんですから。

「因果応報!!」

私はそう言って勘右衛門の元へと走る。

私がいなくなって少しは寂しがればいい。

うん、分かってる、そういう奴じゃないってことは。

・・・むなしい。










部屋から出てきたのはいいが、どうしよう。

数えてるってことは鬼ごっこか、かくれんぼか、その類。

勘右衛門は今回逃げ役か。鬼より早く見つけなくては。

必死な顔の勘右衛門が見られない!!



と、言っても長年勘右衛門を追いかけまわしている私だ。

帰巣本能のように勘右衛門の位置を把握できる、気がする。

たぶん、目を瞑っていても辿り着くんじゃない?



と、言うわけで私は一応色々考えながら気の向くままに歩きだした。



鬼から逃げているってことはどっかに隠れようとするはず。でも、そこは忍術学園五年生。

たぶん屋根裏や軒下にはいない。いるなら屋根の上か、木の影、建物の影、池の中っていう可能性もある。

とりえず、人気のないところを目指して、建物の裏側を覗くがいない。

本能って意外と役立たず。










「だから、ちょっと距離を置いてくれたらいいの」

「うちらも話しかけづらいのよ」

猫なで声のそれは、拒否を許さないものだ。

知っている。これ、あれだ。呼び出し。

確かに人気はないけど、せめてくの一の敷地内でやれよ。

「どうして私がわざわざそんなことしなきゃいけないの。別に私がいても話しかければいいでしょ。私は話しかけるななんて言ってないわよ」

げぇぇぇぇ。

この声、じゃん。何やってんの?何でわざわざ煽ってんの、あの子。

「あんたのそういう澄ました態度が気に食わないのよ!!」

ああ、ああ。もう、嫌だ。

でも竹谷君に先日ああ言われている。

人の目なんてどこにあるか分からない。ここで私がこれを知らぬふりをすれば、竹谷君の耳に届けば・・・最悪。

ウンザリするけれど、頑張らなければならない。

どうせだし、に恩でも売って勘右衛門の情報を教えてもらうのが堅実的だ。

私は重たい足を地面に擦りつけながら歩く。

壁の向こう側にいたのは確かにだった。その他、同級生三人。せめて後輩だったらどうとでもできたのに。先輩の方がまだまし。よりによって同級。

「あんたが誑し込んでなきゃ、私だって!!!」

「ちょっと」

声を荒げる相手に声をかけると、後ろ側からだったからか、相手はひどく驚いた。

私だと分かってホッとする三人。

、邪魔しないで」

鋭い目つきで睨まれる。

私だってしたくないわ。

私は一つため息を吐いて、地面を指さした。

「ここ、くの一の敷地じゃないよ。あんたら声でかいから、他の人に見つかったら面倒なのはあんたら。もし、先生やあんたらの好きな人、もしくは忍たま六年だったらどうするの?言い訳効かないんじゃない?」

私の言い分に相手は押し黙る。正論なのだから必然。

その三人に私は軽く笑いかけた。これも処世術。

「これは見なかったことにするから、部屋に帰って落ち着いた方が良い。大丈夫、私以外は誰も見ていない」

不確かだけど。

三人はお互いの顔を見たり、私を見たりしてうろたえている。

完全には空気だ。

竹谷君、これで満足ですか?

「悪かったわ、。あんたの言うとおり、部屋に帰る」

「それがいい。あんた疲れてそうだから、ゆっくり休んで」

一人がそう言うと、三人の足取りはくの一長屋に向かいだした。

あ〜、丸く収まった。でもこれ何回も使える手じゃない。私がの味方だと広まれば、私にまで逆上してくるはずだ。

私は固まっているを見た。

「あのさ、。気丈なのは良いし、あんたの個性かもしれないけど、時と場合を考えなよ。喧嘩売り返してどうすんの?笑顔でなあなあにすることだって出来るのよ?」

は融通が利かない。頭も良いし、理解能力もあるし、人の話だって聞くけど、今回みたいに相手の言い分が不当な時は絶対に折れない。今日は最初優しくは言っていたのだから、少しくらい笑って「そうね、ちょっとかんがえてみる」とかなんとか言っとけば丸く収まるのに。

、あんたも部屋に戻って、少し」

それ以上何も言えなかった。

だって、いつの間にか泣いてたから。

手で涙を拭うこともなく、顔を覆うこともなく、ホロホロと泣いた。

くそっ、美人は泣いても美人だ。

「ちょ、何泣いてんの?」

涙を流しながら私をまっすぐ見る。ああ、何か悪いことした気分。

「私、何かしたのかな?」

むしろ私の台詞なのですが。押し込めたような声はが弱くなっている証拠だ。

は一度唇を噛むと、また口を開いた。

「私、何か悪いことした?」

知らない。私はに何かされたわけじゃないけど、彼女たちはもしかするとされたのかもしれないし、されてないのかもしれない。それは私にはわからない。

「私の何がいけないの?」

分からないよ、そんなの。私に聞かないで。

!!」

反対側から人影が現れる。

私を見て目を見開いて驚いている様子は素敵だ。

ただ、そのあとすぐに眉を吊り上げて睨まれる。

男らしい表情は嫌いじゃないけど、私に向けないで欲しかった。

、どうしてお前がっ!!」

勘右衛門は確かに近くにいたのだ。





本能って意外と侮れない。










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