ドリーム小説
目的の場所を目指している途中での姿を見つけることが出来た。
別の道じゃなくて良かった。
の顔色はほど酷いものでなく、ホッとする。
「鉢屋君、保健室の用事?」
も私が目に入っていたのだろう。
保健室の周りには普段利用するような部屋がない。
だから目的地は容易に判断できるのだ。
私は以前、から食堂前で直接聞いたのだ。普段落ち込むと友人に慰めてもらうが、落ち込みがひどいと何故か保健室に行くことがあると。
どちらにがいるかなど私に分かるわけがないが、簡単な方から回ろうと保健室に来たら大当たりだった。
「を探していた」
は頷くと、困った顔で笑った。
「か」
「ああ、具合が悪く見えるほど心配している。は平気そうだな」
はコクリと頷いた。よかった。
「悪いが私の部屋に来てほしい。が待ってる」
「あー」
は頬を掻く。は私から一度目を離して、眉を下げた。
「ごめん、今から行きたい所があるから。には心配する必要はないって言っておいてくれないかな」
「は心配だけじゃなくて、に謝りたいらしいんだ」
は一度目を開いたが、首を傾げた。少しして一度頷くと私を見た。
「ごめん、それはちょっと」
「何故」
は言い難そうに口をまごつかせる。
私は厳しい表情をしそうになったことに気づいて、慌てないように平然としている表情をつくった。私は怒っている訳ではないのだ。
は私を窺い見て口を開いた。
「だって、切々と謝ってきそうだから」
確かに、先ほどのの様子だと土下座も厭わなさそうだ。
「それが嫌なのか?」
謝れることが嫌?がを傷つけたのなら、受けるべきじゃないのか。謝罪を受けたくないほど怒っているように見えない。
「から何があったか聞かなかったんだ」
「聞ける状態じゃなかった」
あの青い顔を見ればそんな状況でないことなど一目瞭然だ。
それに偶然にしてもがを傷つけられることなど一つしか思いつかない。
「聞けば分かると思うけど、は何にもしてないよ。私を中傷したわけでも、暴力を振るったわけでもない。だから私に謝る必要なんて少しもないの」
「何が起こったか、教えてくれないか」
詳しく聞けるなら、本当のことが分かる。少し期待したが、首を振られた。
「ごめん、私だけの問題じゃないから、私からは話せない。聞くなら他の人に」
すまなさそうなその顔に、私は罪悪感を覚えた。
立ち直っているように見えるが、だってと同じように落ち込んでいるに違いない。私の質問はあまりに不躾なものだ。
「がに謝る必要はないと思っていても、はを傷つけたと思っている」
「偶然起こったことをどうして人のせいにできるの。私はに傷つけられてない」
との考え方の相違。偶然起こったことをは自分のせいだと考えているのか。
がそれで良いと言うのなら、それでいい。ただ私がそれをに伝えたところで納得しそうにない。
「は根本的なことを間違えてると思う。今回起こったことは偶然。もし誰かに責任があるとしたなら、私だよ。は巻き込まれた方。よかったら悪かったってことも伝えて」
「分かった」
が傷つく原因は確かに一つしか思いつかないのだが、どういう内容なのか当然分からない。だから私は頷くほかない。に本当に非があるか、偶然か、など判断できるはずがないのだ。
「じゃあ、よろしくね、鉢屋君」
「ああ」
は私の後ろに向かって歩き出した。
おそらく、部屋に変えるのだろう。
フッと疑問が起こって、の腕を掴んだ。
が振りかえる。
「明日は食堂の前に来るのか」
は力なさそうに笑う。
「うん、寝坊しなかったら」
それだけ聞ければ良かった。私はの腕から手を離した。
は何も言わないで、真っすぐ前を向いた。
当然、もう私は視界に入っていない。
の背中はいつもと違って力がない。
以前、身長が小さいと感じたが、今はそれよりもっと小さい。押せば倒れてしまいそうなほどで、頼りない。
それにひどく触りたいと思う。優しく触れて、押すのではなく、この腕で包みたい。
その衝動が自分を揺るがせる。したいままに動きたいが、それはどうやっても無理な話。
胸の内のざわめきを抑えるには視線を逸らす以外に方法はない。
いや、それで治まるはずがない。本当はこれ以上を見ていたら、本当に行動してしまいそうで怖いのだ。
の姿に背を向ける。
私がの為にできることは、が言ったことを間違えないでに伝えることだ。
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