ドリーム小説



私は何て馬鹿なんだろう。

どうしてもっとちゃんと止めなかったの?

怒る勘右衛門を必死で止めればよかった。走って行くちゃんを追いかければよかったのに。

起こった事態を上手く理解できないで、呆然と突っ立ったまま眺めていた自分に腹が立つ。

、大丈夫か?」

まだ怒っているのか、言い方が荒っぽいが、心配されているのが分かるように、覗きこまれた。

「大丈夫じゃない」

「え、どっか怪我でも」

ちゃんが大丈夫じゃない!!!」

「は?」

濡れたままの顔が気持ち悪くて、ごしごしと顔を拭う。

こんなことで泣いている場合じゃない。

勘右衛門の誤解を解かなくちゃ。

ちゃんはきっと泣いているに違いない。



「勘右衛門、違うの、ちゃんは悪くない。むしろ悪いのは私で、ちゃんは何もしてないの」

泣いてだろ!?何であいつを庇うんだ」

確かに私はボロボロと泣いていたけれど、庇っている訳じゃない!

「あいつだって謝ったじゃないか。誤解なら、謝る必要なんてないだろ!?」

確かに、ちゃんは勘右衛門と私に謝った。それが何でなのか分からない。

ちゃんに非は全くないのに。

「それにあいつ笑ってた。笑いながら謝るなんて、俺はあいつが許せない」

確かに笑っていたけれど、違うのに。

違うのに、それは事実だ。




「勘右衛門、発見」

場に似合わない、無機質な声が出た。

兵助が歩いてくる。勘右衛門の肩に手を置いて「タッチ」と言った。

「で、何してるの?二人で」

ん?と首を傾げる兵助は間違いなく場違い。

勘右衛門は兵助を無視して、私を見据えた。


は分かってないよ。俺はにずっと嫌がらせされてたんだ。そういうことしてもおかしくない奴なんだよ」

その言葉に私は悲しくて、すごく勝手な話だけどムカついて、頭が真っ白になった。



「勘右衛門が知ってるちゃんってそんなものなの!!?」



喉から精一杯、声を張り上げる。私のことじゃないのに、ひどく悔しい。


「勘違いだって言ってるのに!!」

私が怒るなんて全くのお門違いだ。

でも抑えられなかった。




「勘右衛門の『勘』は勘違いのカン!!」

全くの意味不明な言葉を出して、そこから逃げてしまった。







「まんまだな」

走るの背を見て、兵助が言う。

は勘違いだと言うけれど、俺はそう思えない。

間違いなく、の前で泣いていたんだ。

昔からそうだ。あいつは人を傷つけることができる奴なんだ。

分かってないのは、だ。

自然と拳ができた。
















追いかけるのが遅すぎた。

ちゃんの姿なんてどこにもあるはずがない。

ちゃんが行きそうな場所として、私が知っているのは教室か、長屋くらいだ。

焦る。全部、私が引き起こしたんだ。

もしちゃんが泣いていたら、それは私の責任だ。

カッと血が上る。罪悪感ではなく、責任感が私を突き動かす。

教室より長屋の方が可能性は高い。

私はそう判断して、足を長屋の方へ向けた。

そちらの方には見知った顔があった。

「食堂の当番終わったのか?」

ニッと笑って歩いてくる三郎。

しかしすぐに私の様子がおかしいと分かったのだろう、眉間に皺を寄せた。

足を速めて私のすぐ前に来る。

「お前、どうしたんだ?顔色が悪いぞ」

三郎の手が私の額に触れた瞬間、ドキリとする。

違う、こんなことしている場合じゃない。

「熱はない、どちらかというと低いな」

「ち、ちゃんが」

?」

皺を寄せたまま三郎は首を傾げる。

私は頭を振った。

今は状況の説明をしている暇はない。

ちゃんを見なかった?」

「見てないけど、がどうかしたのか?」

額に当てた手を今度は肩に移動する。

がどうしたんだ?」

催促するように揺すられる。

「ちょっと、勘違いがあって、ちゃんを傷つけちゃったの。だから、私、謝らなきゃいけない」

言葉を切れ切れに話す。

曖昧な言葉だが、三郎は頷いた。

「分かった。、私の部屋で待ってろ。私がを見つけてくる」

私はブンブンと頭を振る。

私が見つけないと。


すると、今度は両肩を掴まれた。

「私にはお前も傷ついているように見える。部屋行って、休んで、一度落ち着け。ちゃんとを探してくるよ」

頼りになる。しっかりとした口調で言われて私は頷いた。

「三郎、ちゃん今すっごく落ち込んでるはず」

「大丈夫だ。はきっと元気になるよ」

私はまた頷いた。

三郎の大きな手が肩から離れた。

「もし、誰か見つけたら一緒に部屋にいろ。私も誰か見つけたら部屋に行くように言っておくから」

三郎はそれを言うと、走りだした。

行く当てがあるのか真っすぐ長屋とは違う方へ走って行く。



私よりも三郎の方が良くちゃんを知っているんだ。

どうして三郎はそんなにちゃんのことを知っているんだろう。

余計な邪推は頭を振って打ち消す。不謹慎だ。

私はどうしようもないくらい、馬鹿だ。






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