「おはよう、勘右衛門!!」
俺には苦手な人がいる。山田先生の女装より、木下先生の笑い声より、斜道先生が暗闇から出てくるより恐ろしいものがある。
それが今、笑顔であいさつしてきた女子だ。名をという。
「お、はよ、う」
足が一歩離れる。仕方ないだろう、怖いんだから。
毎朝毎朝、なぜか待ち伏せされている。あの笑顔の裏で一体どんな仕掛けをしているか、わかったものではないのだ。
明るい笑顔に騙されてはいけないんだ。
「今日、五年生は午後から実習なんでしょ?がんばってね」
首を傾げ言うが、それがさらに怖い。
なんでそんなこと把握してるんだよ・・・。
は踵を返すと、食堂に入って行った。
こ、怖かった。
そんな俺の方に手が乗った。
「勘右衛門、お前過剰反応しすぎ」
三郎が言う。
「だ、三郎は俺がから何されたか知らないからそんなこと言えるんだよ!!兵助、俺に対してあいつひどいよな!?」
「え、ああ。そうだな。結構、怪我してたもんな。風邪もひいたっけ?」
三郎はフン、と鼻で息を吐くと、俺を追い抜いて食堂に入って行った。
三郎だって、今まで一緒にいたんだから全く知らないわけじゃないのに。
「ちゃん、そんなに悪い子じゃないと思うけどね」
「は同じくの一だから」
援護するような発言が少し不服だ。
「まあ、私もそんな親しいわけじゃないからよくわからないけど」
は苦笑した。ああ、顔整ってるなあってこういうときに思う。
「にしても毎回、俺らは総無視だな」
気持ちいいくらいに笑う八左ヱ門。一体無視されて何が嬉しい。
「とりあえず、ご飯食べようか」
やわらかい笑みを浮かべて雷蔵が一歩食堂へ踏み出した。
なんか釈然としない。
食堂で食事をしていると気になることがある。それは俺だけじゃなくて、他の5人も一緒。
視線だ。
俺への視線とかじゃなくて、への視線。それも好意のものじゃない。はっきり言えば悪意。
他の4人は実は女子にすっごく人気がある。まあ、俺から見てもかっこいいなって思うし。は美人だし、俺浮いてない?じゃなくて、そうでなくて。
ほとんど俺らとつるむ女子はだけだ。だから女子からはあまり良い目で見られない。
本当にときどきだけど、悪口さえ聞こえてくることがある。そういう時は八左ヱ門とか黙ってないんだけど、俺らは許せない。
は性格がいい。やさしいけど、自分の意思をちゃんと持ってて、それが相手とぶつかったとしても相手の意見を蔑ろにしない。
俺はそういうところが尊敬できると思う。
それが何で、俺らと一緒にいるだけで中傷されなきゃいけないんだって、思う。あいつらの目は節穴だ。
は気にしないって言っているけど、やっぱ、少し弱ってる。
授業中じゃ俺らかばってやれないし、俺らとばっかり飯食ってるってことはあんま仲良い女子もいないんじゃないか。
そう思うと、くの一全員が憎く思えてくる。
原因の一つに俺らがを独占しすぎているってのもあるけど・・・。
「そういえば、さっきちゃんが言ってたけど、今日実習なの?」
がお茶を啜って言う。
「そうなんだよ、昨日急に先生が言い始めてさ」
「今日の正午から日が沈むまでかくれんぼ大会」
「負けたチームは罰ゲームなんだ」
全員嫌気がさしている。ずっと隠れているっていうだけでもきついっていうのに、負けたらさらに罰ゲームまで。
たぶん、結構体力勝負なやつ。きっついなぁ。
「てか、はどっから聞いたんだろな?昨日決まったってのに。しかも放課後」
「情報網すげぇ」
あいつの話に俺は加わらない。だって怖いから。
情報網がすごいって、あいつ絶対何か仕掛けに使う気だろ。なんでみんなそんなに悠長なんだよ。
わかってる、狙われてるのが俺だけだからだ。
一年のころから俺ばっかり狙って、落とし穴とか、木に吊り上げられたり、池に放り込まれたり・・・。ろくなことねぇなぁ。
苦手意識が出たってこれなら誰も何も言えないと思うんだけどな。
たぶん、あいつ俺のこと嫌いだろ?
俺は何もした覚えないぞ・・・。
心労のせいか、一つ胸からため息が飛び出した。
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