勘右衛門に誤解されたあの日から一週間が経った。
最近、勘右衛門の眉間の皺が取れなくなるのではないかと心配している。
男らしい表情は嫌いではないのだけれど、あの可愛い顔に厳つい皺は似合わないと思う。
原因の私が言うことでもないか。
とりあえず勘右衛門は毎朝私の前を通ってくれる。
それだけでいい。会えるなら、挽回できる機会は巡ってくるはずだ。
直接嫌いだと言われたのに、私って執念深い。嫌がっているのははっきり分かるのだけど、どうしても朝の挨拶を止められないのだ。
も竹谷君も勘右衛門に何も言ってないみたいだから良かった。これ以上拗れたらさすがに困る。
ただ毎朝が私を見てすまなさそうな顔をするのは申し訳ない。
本当に申し訳ないとは思っているのだ。
だが、この状況は頂けない。
はわざわざ私の部屋を訪ねて、私の目の前に座っている。
「ちゃん、やっぱり私は納得ができないの。このままの状態でいる必要なんてない。あんな顔、勘右衛門にされていいはずがないでしょ?ちゃんは良いことしたのに」
ということを私に言ってくるのだ。
どうも私の許可が下りるまでは勘右衛門に説明する気はないらしい。
そこは気を使ってもらってありがたいのだが、こう何度も同じことを繰り返されれば飽きが来る。
は毎日、暇を見つけては私を訪ね、これと同じ話をするのだ。
「それに勘右衛門だって誤解であんな態度をとっていたなんて知ったら悲しむよ。だから話した方が良いと思うの」
「悲しむなら知らせなければいい話でしょ。、私のことを思って言ってくれるのは分かる」
強く頷いて言い聞かせる。もつられて頷いた。あともつられて頷いてくれ。
「だけど私はよりも勘右衛門が大事なので、このままにしておいてください」
「ちゃん、それじゃ駄目なの」
駄目だったか。誘導失敗。
「今の状況は勘右衛門を蚊帳の外に置いてるんだよ。そんなの酷いでしょ?」
「別に良いじゃない。知る必要がない事実だもん」
「ちゃん!」
大きな声を出されても困る。
どうして私が言っていることを受け止めてもらえないのか。本人が良いって言ってるんだから良いでしょうに。
「なら、あんたどうしたいの?全部勘右衛門に話して、勘右衛門が私に謝って仲直り?話せば絶対に勘右衛門は罪悪感を持つはずだし、長い間私に後ろめたい気持ちが起きるはず。私に会えないなんて思われたらどうするの?」
「でも誤解が解けたらきっと勘右衛門はちゃんを良い子だって認めるはず。今よりもグッと仲良くなるよ」
うっ、なんて魅力的な言葉。
でも、予想外のことなんていくらだってあるのだ。会ってもらえなくなったらそれこそ終わりだ。
「、そんなに言うからには保証があるのよね?絶対に私が勘右衛門に避けられないように取り計らえるのよね?」
「それはない。この世に絶対なんてないもの。でもね、このままじゃ」
繰り返しだ。もうやだ。放棄だ放棄。
「お饅頭あったよね?食べようよ」
もう一人、我関せずの態度で部屋の端にいた友人に聞く。
「ちゃん!!」
ああ、もう面倒くさい。
「じゃあ、もうあんたの好きにすれば!?私は何もしないからね!!」
同じ議論を繰り返すなんて、生産性がない。
私が言い放つと、はびっくりしていたが、口を固く結んだ。私は大きな目から強い眼差しを受ける。
「分かった。好きにする。必ず勘右衛門の誤解を解いてくるから」
え、ちょっと待て。
は立ち上がると走ってどこかへ行ってしまった。
いやいやいや、会話の流れを読もうぜ?売り言葉に買い言葉でしょ?つい出ちゃったって感じでしょ?どうしてそれを鵜呑みにするのかな?
「どうしてみんな、人の為に働きたがるの?」
が出て行ったところをポカンと見つめながら、思った。
「世間体があるから」
即座に答えてくれた友人は、世間体など気にしたことがなさそうだ。
ああ、もうやだ。
どうにでもなってしまえ。いや、なるな、どうにもなるな。
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