鼠男と残念賞
三話
「な〜んか、納得いかないのよね」
は屋根の上から見えるある一点について声を漏らした。
「まあ、世の中なんてそんなもんよ」
世の中という深い言葉を使うのは隣にいる同級生のくの一。きなこ餅を嬉しそうに頬張っている。
も箸でつまんでキナコ餅を口に入れた。
これはくの一教室で作ったものである。
作るのが目的なので自分で食べる者がほとんどだ。天気が良いからとは友人と2人で屋根に上って食べている。
そんな中の解せない光景。
「どうしてあんな男にこんな美味しい物を差し出しているのかしら?」
自分で作ったきな粉餅の美味しさを噛みしめながら、は首を傾げる。
「あの子たちは私たちと違って団子より花なのよ。美味しい物より美しい者。価値観の違いじゃない?」
「いや、私が言いたいのはそこじゃなくて」
ずれた発言をする友人にストップをかける。
「好きな人に手作りの食べ物をあげる、ってのは理解出来るのよ」
「あら、そうなの」
「それくらい分かるわよ」
驚いた、という感じの友人にはがくりと落とす。
「ただ私が言いたいのは何で立花があんなに人気者なのかということよ」
「人気者と言われると遊園地にいるマスコットを思い浮かべちゃったけど、時代錯誤だからこういう発言はアウトかしら」
「アウトね」
「そうね〜、でも立花は以外にはそれなりに外面良いわよ」
きな粉の付いた唇を拭いながら言う友人。
「外面って・・・、まあいいや。とにかく立花がもてるのは納得いかないわ」
「好みの問題よ〜、そんなに気にすることないじゃない」
友人は箸を伸ばしての皿から一つ餅を取った。
は答えにもその行為にも眉を寄せた。
そんなに友人はにやりと笑って見せる。
「あ、もしかしてヤキモチ?」
「は?」
友人の口から出た単語が理解できない。ヤキモチ。
自分の皿を見ては口を開いた。
「いいえ、これはきな粉餅です」
「わざとらしいなぁ」
棒読みのボケに友人は優しくかつ馬鹿にするように笑った。
モゴモゴと口を動かし、友人は餅を飲み込む。
「と立花はある意味付き合いは長いし、それにお互いに向ける態度は他の人にはしないものだもの。特別な関係よね」
「嫌味を言い合う仲よ」
友人は箸を置くと、膝を立てて顎をのせた。
「嫌よ嫌よも好きのうち〜って言うじゃない。嫌味言い合えるくらいにはお互いのこと知っているわけで、そういう相手が女の子に群がられているから気分悪いんじゃない?」
「そんなわけないでしょ」
ため息と一緒に友人の発言を否定した。
表層だけを見るなら仙蔵はのことが嫌い、は仙蔵のことが嫌い。いや、嫌いまではいかないだろう。
顔を合わせられるくらいの関係ではある。気に食わない程度だろうか。
「まあ、私はどうでも良いんだけど」
散々推察したにもかかわらず、友人はその一言で投げ捨てた。
一人がモヤッとした感覚を抱く。
女の子に囲まれる仙蔵。
嫉妬じゃない。ただ純粋に女の子たちが理解できないだけだ。
人に残念賞などと言ってくれる男に嫉妬など持ちようがないじゃないか。
は友人の意見は全くの見当違いだと、こちらもそれを投げ捨てた。