ドリーム小説
「、どうしてお前がっ!!お前がどうしてこんなことをするんだ!!」
勘右衛門の声が響く。それも私に向けて。
今の状況。
が泣いている。私が立っている。つまり、私がを虐めているように見える、と。
何でよりによって勘右衛門かなぁ。
勘右衛門はを守るように、間に立った。
「俺、お前は意地悪するやつだけど、俺に対してしかしない奴だと思ってた。本当は良い奴だって信じてたのにっ!裏でこんな卑怯な真似をしている奴だなんて思わなかったよ」
ギラギラとした目が私を貫く。
そっかぁ、私一応良い奴だって思ってもらえてたのか。
あいさつ運動は無駄じゃなかったなぁ。
「がお前に何したって言うんだ!?ずっとこんなことやってたのかよ!」
「ちょ、勘右衛門、ちがっ」
怒っている勘右衛門をが止めるが、怒っているんだから、それを聞くわけがない。
「最低だよ、お前」
まるで親の仇のように言われる言葉は、確かに私の胸を傷つけた。
勘右衛門に怯えられて結構麻痺してたって思ってたけど、別の痛みはちゃんと感じるんだな。
「お前なんか、大嫌いだ」
どうしよう、さすがにこれは、痛い。
顔が歪みそうになるのを堪える。涙が出そうになるのを抑える。
どうか、暫く膝が折れませんように。
「勘右衛門!!」
が叫ぶが、勘右衛門の目は私から離れない。
どうせ見つめられるなら、もっと優しい目が良かった。
固まっている口の両端を引き上げニッコリ。いつも練習している笑顔。
「うん、ごめん。悪かった」
私がそういうと勘右衛門が一度怯んだが、また同じ顔に戻る。
は後ろで驚いている。
「もごめんね、嫌な思いさせて」
それだけ言うと、私は踵を返してできるだけ足を速く動かした。
いや、なんか大丈夫な気がする。まだいける気がする。
後ろからが叫ぶから、もう一度だけ振りかえった。
「またね」
勘右衛門は二度と私の顔なんて見たくないだろうけど、私はまだたぶん見たいと思うから。
私の中心はあくまで私だから。
走って着いたのは、自分の部屋でもなく、教室でもなく、何故か保健室だった。
ほら、傷ついたから手当てしてもらわないと。
心臓がこんなに痛いのに、傷ついてないはずないもん。
コンコンと叩く。中から下級生の声がしたら帰ろう。
でも中から聞こえたのは幸いにして、一年の頃に嫌ったその人の声だった。
障子を開けて中を覗く。
癖のある髪が揺れた。
「珍しいね、ちゃん。どうしたの?」
どれだけ私が嫌な顔をしても、次に会った時は優しく笑うその人は、心の傷も治療できる人。
「先輩、背中、貸してください」
「・・・いいよ」
先輩は聞かない。たぶん予想がつくのだろう。まあ、私がこんなにへこたれるのって勘右衛門のことくらいだし。
先輩の後ろに回ると、膝が抜けるように崩れ落ちた。そして先輩の背中に額を押しつけた。
人の体温に安心する。
そのまま目を瞑ったら、勝手に涙が出てきた。
何も考えられない。何も考えたくない。胸のジワジワとした痛みが大きくなったり小さくなったりする。ギュッと先輩の衣を掴んだ。
耳を当てると、先輩の心臓の音がする。落ち着く。
「ちゃんは可愛くない妹みたいだね」
先輩は笑う声でそう言った。
「可愛くないは余計だし、先輩みたいなお兄ちゃんはごめんですよ」
「ほら、可愛くない」
笑う振動が顔に伝わる。
痛みが小さくなる。
心が落ち着いた。とりあえず応急処置。
ホッと息を吐いた。
背中から頭を離す。
あとは友人に抱きしめてもらおう。
そうすれば完治する。
先輩といい、友達といい、私甘えてるなぁ、ってこういうときに実感する。
先輩は体を少し後ろに向けると私の頭を撫でた。
「先輩、馴れ馴れしいです」
「君はもう少ししおらしくできないのかな」
保健室に入っておおよそ三分。
切り替えが早いのは特技だ。
先輩が手を離すと、私は頭を下げた。
「ありがとうございました」
「うん、またいつでもおいで」
私は立ちあがると保健室を出た。
今日、分かったこと。
勘右衛門が意外と男らしい表情ができること。
勘右衛門が私を良い奴だと思っていたこと。
勘右衛門が私を虐めをしてもおかしくない人間だと思っていたこと。
勘右衛門にさっき嫌われたこと。
以上。
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