どうして女子の噂話は広まるのが速いのか。
壁に耳あり、障子に目あり。きっと昨日のとの話を聞かれていたのだろう。
だからと言って、一日でこれはないと思う。
初めて同級生の女子に人気のないところへ呼び出された。
まさかこの私がこの様な状態に陥るなんて一か月前まで、いや、一昨日までは考えもしていなかった。
だってこうやって、嫉妬の炎をもった女の子に囲まれる役って可愛い子限定でしょ?
私の周りを囲った5人がギラギラと目を尖らせている。
腕を組んでいる級友は上半身を前のめりにし、私に迫る。
「先に確認しておきたいんだけど、、鉢屋と付き合うって本当?」
「うん、間違いない」
私は即座に答えた。
余計に雰囲気は悪くなる。
「あんた、よくまあ、抜け抜けと」
顔をしかめ、憎らしいものを見る目を私に向ける。
この間まで失恋した私を可哀想に見ていたのに、人の感情の変化はすごい。
まあ、可哀想はあくまで他人事だから当たり前か。
「あんたこの間まで尾浜を付け回していたのに、ずいぶん変わり身が早いね」
冷静に聞こえる言葉だが、彼女の顔はまるで般若のようだ。
「この尻軽が」
吐き捨てるように言われるが、まあ、うん、確かに乗り換えが速いと自分でも思わないこともない。
「あんた知ってたでしょ!私が鉢屋君のこと好きなの。裏切ったわね!!」
それに私は首を傾げるしかない。
「知らないわよ。私あんたからそれ聞いた?」
口を開いたらいけない場面だったかもしれない。
以前のに謝りたい。私も相手を煽ってしまったようだ。
相手は益々顔を赤くさせる。
「そんなの言わなくても分るじゃない!ずっと鉢屋君のこと見てたし、お菓子だって一番に持って行ってたのに」
知るわけない。その場面に立ち会ったことはないし、人の視線なんてその人間に興味がなければ何を見ているかなんて見るわけがない。
しかしここでこんなことを言ってしまえばさらに悪くなるだけだ。
一人は急にホロホロと泣きだした。
「あんたが失恋した時、次は上手くいけばいいなって思ったのに」
まさか知らないところで次を願ってもらっていたとは。
「なんで、なんで・・・鉢屋なのよ」
「他の人なら、応援だってしてあげられたのに。こんなに、あんたのこと鬱陶しく思わないで済んだのに」
それぞれが苦しそうに、涙を流したり、目の縁に溜めたり、目を逸らしたり。
そんなことを言わないで。
罵倒して、吐きだして、傷つけて。私なら構わない。
それくらいしか私にできないから。
目の前の彼女は唇を噛みしめて私を潤んだ目で見る。
そんなに仲が良いと言うほどではないのに、こんな風に思ってもらえるのも同じ教室で学んでいる者同士だからだろうか。
今までの自分がどれだけ周りに無関心であったか知らされている気がした。
彼女は私からフイと目を逸らす。
「・・・あんたなんて大っきらい」
こんなに相手を苦しめて、私は一体何がしたいのだろう。
私が思っていた様子とは反応が異なる。
もっと爆発するような思いをぶつけられると思っていたのに、これではもっと彼女たちを苦しめるだけだった。
少しでも罵倒されることで罪滅ぼしになるかと思っていたのに、罪悪感が増えた。
全てが私の自己満足による妄想だったのだ。
「何してんだ?」
ふっと、彼女の後ろから声がする。
少し怯えるような、戸惑っているような、困惑するような情けのない顔をして、それでも少しの確かな勇気を持った、その人。
とっても間の悪い、その人。
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