足が止まると、皆呆れたように笑うんだ。
場所はいつも通り、食堂へ行くまでの最後の角手前。
原因は解消されたはずなのに、まだこの反応は終わらない。
もう一種の習慣なんじゃないかと思える。
八左ヱ門が苦笑して俺を見る。
「もうは待ってないんだぞ」
「わ、分かってるよ、それくらい」
まるで臆病者だと言われているようで、恥ずかしくて勢いよく返事をした。
もちろん、八左ヱ門はそんなことを思っていないし、そうでなくとも実際に自分は臆病者だと思う。
「ほら、ご飯ご飯」
が背中を押す。
食堂前の廊下に出てれば、そこにいるのはやはり三郎だけだ。
「よお」
いつも通り三郎は手を上げる。全員がぞろぞろとそこへ向かう。
「三郎は律儀だな、もう付き合ってるのにまだ朝にわざわざ待ってるんだから」
「関係を円滑に進めるなら物事はマメにした方が良いんだよ」
朝の和やかな雰囲気に皆頬が緩んでいる。
三郎は今でも、朝、早く起きては食堂の前に立っている。以前ののように。
それの意味を俺はよく知らないけれど。
前に尋ねた時は「に興味がわいたんだよ」「恥ずかしい話、に変装できる自身がないんだよな」と言っていたはずだ。
なら、もうと恋仲になった今は?
「三郎」
「ん?」
「三郎は、朝早くここに来て、何してるんだ?」
プッと八左ヱ門が笑う。
「な、何だよ、おかしいことか?」
兵助はまるで変な物を見る目をしている。そんなにおかしい質問だったか?
笑った八左ヱ門が俺の肩に手を置いた。
「そんなの決まってるだろ〜、朝起きてすぐに一目恋人に会いたいんだよ、な?」
楽しそうに笑う八左ヱ門は三郎に向けて首を傾げた。
聞かれた三郎は苦そうに表情を歪めて笑う。
「そう言われると素直に頷きたくなくなる。まあ、理由なんて些細だろ。何でもいいんだ」
「ふ〜ん」
そう言うものなのか。だったら、付き合う前から朝早起きしてたのもそう言うことなのか。
・・・ん?あれ?今、何か思ったんだけど。何か、おかしい?何だろう、一瞬で分からなくなったけど、すごく違和感があった気がする。
「勘右衛門はまだ食堂前に来ると一回足を止めるんだよ。がいると思ってさ」
「ちょっ」
八左ヱ門がからかう様に言う。からかわれる俺は堪ったもんじゃない。
そんな俺の慌てぶりに三郎はポンポンと肩を叩いた。
「安心しろよ。もうがお前を待ってることなんてないから」
「あ、ああ」
「毎朝そう言っても治らないんだ」
俺が中心の話題はそれで終わって、時間がないということで食堂に入った。
何がそんなに胸に引っ掛かったのか分からない。ただ、閃きそうだったのに出てこなかった気持ち悪い感じが残った。
いつも通りのことの中で、いつも通りじゃないことが起こって、それがいつも通りになるのはどれくらいの時間がかかるのだろう。
戻る
次
四角形トップ