はトボトボという効果音が似合うような歩き方をしていた。

いつもは背を伸ばし、滑らかに歩く彼女にはとても似合わない歩き方だ。

大きく振る腕も今日は物を抱えているせいで、前で固定されそれにより方が内向きになり、余計落ち込んでいるように見える。

は自分の手にあるものを見て、ため息を漏らした。



そんなの後ろから迫る影がある。

最初は後ろから驚かせてやろうと思ったが、の様子を見て止めた。

少し離れた位置からに声がかかる。

名前を呼ばれたは反射的に振り向いた。それに普通に返事をしそうになってから、自分が手に持っている物に気が付きそれを背中に隠した。

「か、勘右衛門。こんな所で奇遇ねぇ」

あははは、と乾いた笑いを付けては返事をした。その反応に勘右衛門は目を丸くした。

それから眉間に皺を寄せた。

「・・・頭、打ったのか?」

は必死で笑顔を取り繕って首を傾げる。

「何のこと?」

「『ねぇ』って何だ?『ねぇ』って。ってか誰だ?三郎の変装とか考えられないくらいらしくない。あまりに変だから頭でも打ったのかと思った。保健室行くか?」

あまりの言い様だが、は笑みを崩さない。

「やだなぁ、勘右衛門ったら。保健室なんて必要ないよぉ。私めっちゃ元気」

勘右衛門の顔がゆがむ。それは拒絶するような顔で、それを見たは一歩後ずさる。

「じゃあ、あの、私、用事あるから」

これで、と言って逃げるつもりだっただったが、それを言う前に勘右衛門が距離を詰めてしまった。

「さすがにその隠し方はくの一失格だろ〜。何か後ろめたいことがあるのバレバレ」

そう言って、動けないの肩の上に顔を通らせ、が後ろに隠した物を見た。

「ちょ!」

体を捩じって隠そうとするが、後の祭り、勘右衛門にはそれがしっかり見えていた。

しかし勘右衛門は首を捻る。

「えっと、何で隠すの?」

は言葉にならない気持ちを視線を逸らすことによって表した。

そんなの反応に勘右衛門はもう一度、の向こうを見た。もうは隠そうとしない。

「・・・団子だよな」

は更に、恥を押し込めるような顔をする。

それで勘右衛門は一体この白い団子のどこにが恥ずかしがる必要があるのか分からないが、それなりに爆弾であったことは理解した。

「はぁ〜」

は力を抜いて、肩を落とすと隠していた皿を前に出した。

「団子です・・・」

「団子だな」

項垂れるだが、そんな様子に掛ける言葉が見つからない。

落ち込んでいることは分かるが、慰めるにもどういう風に落ち込んでいるか見当がつかないからだ。

見るからに美味しそうな団子である。

「・・・団子です」

「・・・団子だな」

続ける。団子にしか見えないそれを何度も団子と繰り返す必要性が感じられない。

勘右衛門は気まずそうに首を傾げての顔を窺い見る。

「えっと、その団子がどうかしたのか?」

気遣って会話を進めようとする勘右衛門。は頭を上下に振った。

「・・・これ団子に見えるよね」

難しい質問だ。団子にしか見えない上に、先ほどからは団子と繰り返す。

しかしもしかしたら団子ではないのかもしれない。そして団子にしか見えないことに悩んでいるのかもしれない。

「・・・俺には、団子に見える、けど」

「・・・うん、団子です」

はコクリと頷き、団子であることを肯定した。勘右衛門はホッと胸をなで下ろす。

はズイと皿を持ち上げる。

「一つ、食べない?」

「え、いいのか?」

から何かもらえるとあらばこれほど嬉しいことはない。

勘右衛門は手を伸ばして寸前で手を止めた。

「・・・これ、実習で、毒入りとか」

は横に首を振る。

それを見て勘右衛門は団子に手を伸ばし、一つ手にとって口の中に放りいれた。

そして一度歯でそれを噛むと、口を抑えた。見る見るうちに青ざめる。

勘右衛門の変化を見て、は悲しそうに眉をハの字に曲げた。

「吐き出して良いよ。分かってるから」

口を抑えたまま、勘右衛門は団子を噛めない。しかし食べた反応を見て悲しそうにしたを目の前に吐き出すなど出来るはずもない。

勘右衛門は意を決して団子を数回噛むと、唾液と一緒に団子を飲み込んだ。

口を開いてゼイゼイと息をする。

は目を見開いた。

「の、飲み込んじゃったの!?吐き出していいって言ったのに」

「・・・いや、だって、もったいないし」

はすまなさそうな顔をした。

「ごめん、安易に食べてなんて言うべきじゃなかったね」

「いや、吐いていいって言ったのに吐かなかったの俺だし」

フォローのつもりだが、あまりフォローになってない。

更に落ち込むの原因を探るために勘右衛門は「あ〜」と気の抜けた声を出した。

「それで団子が何?」

大きなの揺れる目が勘右衛門を見る。それに勘右衛門はグッときた。

「不味いでしょ」

勘右衛門は反射的に頷こうとしてしまって体を止めた。

団子は見た目と裏腹に酷い味だった。

団子とは特に複雑な味付けをするものではないはずなのに、どうしたらあれほどの味が出せるか不思議なほどで、青臭さや苦みを感じた。

くの一の授業だと言われれば、間違いなく毒入りと思える出来である。

「私、料理下手なの」

「は?」

は大きくため息を吐いた。

「授業は皆で料理を作るじゃない?だから大方生地は他の子がやってくれるから、私は丸めたりするだけなんだけど、一人で作るとこんな風になるの。とてもじゃないけど、人に食べさせるなんて出来なくて。皆がやってるようにやってるのに、こんなになっちゃうの」

団子を見て、また項垂れる

今まで長い間一緒にいる勘右衛門だが少しも知らなかった。

勘右衛門の中では何でもできる才女である。もちろんそれには努力が伴っているのも承知の上。

そんな彼女にこんな致命的な欠点があろうとは予想していなかった。

これが練習して上達すると思うか、と聞かれたら正直否である。

しかし勘右衛門が事実をありのままに伝えられるはずもなかった。

「あ、そうだったのか、へ〜、にも苦手な物があるんだな。知らなかったよ」

「必死で隠してたのよ。料理なんて出来なくてもさほど困らないと思ってた。仕事で必要なら、他の人が作った物を出せばいいし、出来なくても他で補えると思うし」

は片手で髪の毛をグシャリと掴む。他で補えるとは彼女の自信が窺える。

そしてそれが事実であるほどは他の点で大いに優れているのだ。

しかしその考えは過去形である。勘右衛門は首を傾げる。

「なら、何で今更」

その質問には拗ねたように唇を突き出した。

「負けたくないから!!」

「何に?」

ちゃんに!!」

「・・・?」

予想外の人物に勘右衛門は首を傾げた。

勘右衛門はのことを詳しく知っている訳ではないが、より優れていると思えないし、容姿に関してもの方が贔屓目なしに優れていると言える。

勢いに任せてのことを出してしまったは焦った。しかし言ってしまったものは元に戻せない。

そんなの事情を何も知らない勘右衛門は素直に言葉に出した。

「勝ってると思う」

その発言にの眉が吊り上がる。同時に団子の乗った皿も持ち上がった。

「勝ってない!!まだ負けてるつもりもないけど、勝ってない!!」

その迫力に一歩勘右衛門は下がる。

「勘右衛門は分かってない!ちゃんがどれだけ高い壁か!!毎日化粧するってどんだけ面倒くさいか分かる!?あの枝毛が一本もなさそうな髪の毛とか!つるつるのお肌とか!細かいけど女らしい仕草とか!!いつも笑顔を作り出せるとことか!相手を気遣いながら上手く周りとやっていく技術とか!!」

怒号のようなそれだが、男の勘右衛門に分かるはずもない。

化粧などの面倒くささは授業でやったから少し理解できるが、最後の方なのなぜそんな所が上げられるのか疑問である。

「知らないかもしれないけど、ちゃんは女の子としてはくの一の中じゃ上位なんだから」

勘右衛門はそう言われてを思い浮かべる。

思い出してみるが、勘右衛門の中では普通の女子。

がなぜ必死になるのか理解ができない。

「なんか、すごく考え方が変わったな。前に対して寛容じゃなかったか?悪い子じゃないって言ってたし」

はバツが悪そうに顔を背ける。

ちゃんは悪い子じゃないよ。ただ事情が変わっただけで」

「事情?」

考えてみる。しかし勘右衛門の周りでが接触するような場面が思い浮かばない。

「ちょっとは、分かって」

呆れたように言われるそれだが、勘右衛門はオロオロするしかない。

誰よりも鈍感な彼には酷く難解な問題だ。

しかしにそう言われて答えを聞くわけにもいかず、勘右衛門は連想することにした。

にあってにない物。

身長、の方が高い。

勉強、おそらくはくの一教室でも上位。実技、おそらくは一、二争いする程。

性格、とりあえず悪戯に仕掛けをしない。外見、一般的に見てが良し。

劣るとすれば料理の腕くらい。といっても勘右衛門はの料理を食べたことがないのだが、あれより強烈な味がだせるとは思えなかった。

しかし料理の腕と答えるのは違うだろう。

ならば何だ?

顎に手を当てて考える。の事情が変わったのは最近なら、最近のことを思い出せばいい、と考えた勘目門はそれらしい物を見つけ出した。

には恋仲の相手がいるが、にはそれがいない。

は恋仲の相手が欲しいのか?」

「違う・・・訳じゃないけど、正解じゃない」

「難しいなぁ」

苦笑して勘右衛門は頭を掻いた。

は目を覆うように手を当てる。

仄かに頬が赤い。それで勘右衛門はやっと感づいた。頭を掻いた手がゆっくりと頬の辺りまで下がる。


「ああ、三郎か」

納得して出た声は酷く落ち着いていた。の頭がゆっくりと下がる。

それに勘右衛門は眉を下げた。

それから気を取り直して微かに笑みを作る。

「そっか、悪いな、全然気がつかなくて」

「隠してたし、こっちこそごめん。最近本当、勘右衛門に当たってばっかり」

「いや、うん、いいよ、仕方ない。は気まずくなるの嫌で隠してたんだろ?分かるよ」

は困ったように眉を下げた。

それから腕に持った団子を見る。

「これ、誰かに見られない内に処分したいから。また夕食でね」

「ああ、後でな」

見つからないように皿の上に手を被せる。キョロキョロと周りを窺っては勘右衛門に手を振ると、駆け足で去る。



勘右衛門は胸より少し下の衣を掴んだ。

最近は予想通りのことが少なすぎる。








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