もしもこの世の全てが分かっていて、何が起こるかを事前に全部把握できていて、それが自分に都合が悪かった場合、私はそれをねじ曲げる。
私は人間だから、この世で一番自分が可愛い。
昼休みに偶然と渡り廊下で会い、自然と立ち話になった。
「そっかぁ、明日実技は外に行くんだ。きつそうだね」
「ああ。でも一日だけだし、そう大変なことはないだろう」
労わる言葉を笑いながら私にかけてくれるのはだ。
はよく笑うから話しやすい。
「一日中?」
「ああ、朝も早いから明日は会わないかもな」
「そっかぁ」
少し残念そうな顔をする。
それが本心から来ているものでも、そうでなくても良い。とりあえず、私の目の前でそうしていてくれるのだから。
「は甘い物好きだったよな」
「うん、好きだよ。やっぱあれですよ、女の子ですから」
ふざけたように言う言葉に私の頬が緩む。
私の表情を見たがまた微笑むのだ。
「旨い団子屋の話を聞いたんだ。今度一緒に行かないか?」
「おお、いいね。そりゃもうぜひ」
ニコニコと無防備に笑う。
ついその頬に手を伸ばす。触れれば途端にの顔が引きつった。
軽く上下に撫でてみる。肌触りが良い。
「え、あの、鉢屋君?」
硬直しているにニヤリと笑って見せる。
それから人差し指で軽く押してみた。
「柔いな、。気持ちいい」
しつこく何度か押してみる。はう〜、と変な声を出した。
つい笑いが誘われる。こみ上げてくるものを抑えるために手を離した。
「悪い悪い。お詫びに私の頬を触っても良いぞ」
どうぞ、と頬を差し出す。戸惑う様子にまた笑ってしまう。それにムッとしたは勢いをつけて私の頬を押してきた。
「ちょ」
「エイエイ」
ニヤニヤしながら、4本の指で押してくる。
「強、強い」
押されるままに首を回す。が噴き出すように笑う。
それからは手を離して、口を覆うと本当におかしそうに笑う。
それが嬉しくて俺も楽しく笑う。
首が元に戻せたので、が正面に来る。目が合うと更に顔が緩む。
仕舞いには声を立てて笑い始めて、腹の底から愉快な気持ちが込み上がってくる。
そんな笑う私の目はとても細くなっているはずだ。
それなのに視界は遮られない。
私の目にはしっかりと見えていた。
の知らない出来事。私しか知らないこと。
全てが杞憂であれば良い。
人よりも少し優れた己の分析力を呪うべきか、喜ぶべきか。
「鉢屋君?」
少し別のことを考えていたことに気づかれたのだろう。
笑うのを止めたが首をひねる。
「で、団子屋は次の休みでも良いか?」
「いいよ?」
口を横に引き上げる微笑み方では返事をした。
何がどうであったとしても、私にとって良い方へ向けばいい。
向かなければ向かせればいい。
この世で一番大切な自分の為に。
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