「重たーい!!」
「うるさい」
隣からすかさずイラついた声が飛んでくる。
そんなに怒らなくても良いのに。
私と隣にいる友人の手には本。しかも複数。それを図書館まで運ぶ途中である。
運んでいる理由は、まあ、授業中の失敗。
隣にいる友人は手伝ってくれている訳ではない。彼女も罰を受けているのだ。
何を隠そう、今回の課題は2人1組だったのだ!
普段罰則なんて受けない友人は不機嫌である。私だけが悪いわけじゃないのに、私のせいにするし。
「どう考えてもあんたが悪い」
「いや、あんたも悪い。止めなかった」
「止めたわよ」
「止めたって言ってもあれじゃない。『あんた、本当にそれするつもり?馬鹿?』ってやつじゃない」
私も不機嫌になって、眉を寄せる。
「言っとくけどね!もう5年も一緒にいるんだから私にとって「馬鹿」が抑制じゃなく起爆になることに気が付いて!!」
「それ含めて馬鹿だって言ってんのよ」
呆れかえったように言い捨てる。
ムッとしたが、やり取りが不毛であることに気が付いて脱力する。
結局、どれだけ言い合っても図書館にこの本たちは返さねばならないのだ。
話しても文句の言い合いになるだけだ。口を開くのは本を返し終えてからにしよう。
くの一教室から図書館は少し遠い。
その間には中庭なんかあったりして、下級生の忍たまが遊んでいる。楽しそうだなぁ。
腕がしびれてきたので、本を抱え直す。
そんな私の目に飛び込んできた、遠くにある2つの、正確には1つの人影。
「あ」
「あ?ああ」
不意に小さな声が私の口から洩れ、それと一緒に足が止まる
私の上げた声に、友人は即座に納得した声を出した。
そのまま進めなくなる。
どうして、探しているときは見つからないのに、探していない時は簡単に目に入るのだろう。
このまま行ってしまえば、無言で立ち去るなんてできないだろう。
きっと目を合わせて、挨拶などでもしなければならないはずだ。
忘れてしまう為には、会わないでいることが必要。
私の体は私の考えに従順で、友人を見ると、友人が持つ本の上に私が持っていた本を重ねて持たせた。友人の体が沈む。重さなど十二分に承知である。
友人の顔に近づけて、小声で言う。
「ごめん、今度何か奢るからよろしく」
友人の目が見開く。申し訳ないと分かっている。
でも、たまには一人で罰則受けてみるのも良い経験だと思う。
そんな言い訳をして、私は踵を返す。
気づかれないうちに。
静かに。
勘右衛門の目が偶然こちらを見ないように。
後ろから友人の声で「ふざけんなぁ!!」と聞こえてきたが、きっと部屋にお饅頭でも用意しておけば許してくれるだろう。
知らない。一体何が引き金になるかだなんて。誰にも分からない。知るはずがない。
とにかく私は走って安全な所に逃げたつもりでいたんだ。
きっかけなんて本当に些細なもの。
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